カルシウム~Ca カルシウム摂取に最適なミルク

カルシウムを多く摂取している食品

日本人の多くはカルシウム摂取量が食事摂取基準の推奨量より少ないことは前々回に述べたとおりだが、私たちはカルシウムを何から摂取しているのだろうか。国民健康・栄養調査から、食品群別のカルシウム摂取量を眺めてみよう。

上図に示すように、乳類からの摂取が最も多く、野菜類、豆類、穀類、魚介類、調味料・香辛料類の順になっている。カルシウム摂取量の多い食品群について、ざっと眺めてみよう。
当たり前のことであるが、カルシウム摂取量の多い食品群には下表に示すようにカルシウムを多く含む食品がある。その中で、カルシウムを少ししか含まないコメ(米飯)、コムギ(食パン)は食べる量が多いので、穀類のカルシウム摂取量が4番目に多い食品群となっている。2番目にカルシウム摂取量の多い野菜類では、小松菜などアブラナ科の葉菜にカルシウムが多い。豆類で食べられているのは大部分が豆腐など大豆加工品であるが、大豆にはカルシウムが多い。調味料・香辛料からのカルシウムが意外に多いのは、大豆を主な原料とする味噌の寄与が大きいからである。魚介類は、身だけ食べるまぐろなどの魚ではなく、骨まで食べる小魚(イカナゴ、田作り)や貝類の寄与が大きいと思われる。

 

カルシウムの体内利用からみると

国民健康・栄養調査の栄養素摂取量は、食べた食品に含まれる各栄養素量を示したものである。そのため、体内で利用されるカルシウム量をそのまま表しているわけではない。
植物性食品からのカルシウムはミルクに比べて体内利用がよくないことが知られているが、その理由としてカルシウムの吸収が悪いことがあげられる。カルシウムはイオンとして水に溶けていなければ消化管から吸収されない。植物性食品の中で葉菜類やお茶にはるシュウ酸が含まれ、シュウ酸はカルシウムと反応して不溶性の塩となる。これが野菜類のカルシウム利用が低い理由の一つと考えられている。
ところで、人体中のカルシウムはヒドロキシアパタイト( Ca10(PO4)6(OH)2 )として骨にあるが、この化合物のリンとカルシウムの重量比(P/Ca比)は1:2に近い。このようなことから、カルシウムはリンより多く摂取する方がよいといわれることがあるが、カルシウムとリンの摂取比率について「日本人の食事摂取基準(2015)」は何も触れていない。
動物実験では、P/Ca比が2:1から1:2の間ならラット(ネズミ)の成長に影響しないことが報告されている。国民健康・栄養調査では、日本人の摂取P/Ca比は2程度である。上の成分表をみると、魚肉を含めて肉類のP/Ca比は極めておおきい。肉類はたんぱく質の豊富な食品であるが、たんぱく質の過剰摂取はカルシウム出納を悪化させるという動物実験の結果も報告されている。こうしてみると、肉だけを多く食べることはカルシウム栄養にとって好ましくないので、カルシウムの多い他の食品を一緒に食べることが望まれる。

 

カルシウム栄養によいミルク

牛乳がカルシウム栄養によいことはだれでも知っているが、単にカルシウムを多く含むからだけではない。
牛乳には多くの種類のたんぱく質が含まれているが、中でも酸性にすると固まるたんぱく質カゼインが多い。牛乳を乳酸発酵させるとヨーグルトができるのは、カゼインの性質によるものである。このカゼインもたんぱく質なのでアミノ酸が長くつながっているが、その中に4つのアミノ酸(セリン)にリン酸結合した部分がある。この部分を消化酵素で切り出すと21分子のアミノ酸からなるカゼインホスホペプチド(CPP)ができるが、CPPは小腸でのカルシウムの吸収を高める作用を持っている。
ところで、ヨーグルトをしばらく冷蔵庫で保存しておくと、上済み液が分かれてくることがあるが、これを乳清という。乳清にも多くの種類のたんぱく質が含まれているが、その中にミルク塩基性たんぱく質(MBP)があり、MBPは骨密度を高める働きを持っている。
牛乳にはこのような機能をもった成分も含んでいるので、カルシウム栄養を改善するには牛乳が適した食品であるといえる。なお、CPPもMBPもこれらを含む特定保健用食品が市販されている。

 

牛乳や乳製品をもっと食べるには

カルシウム摂取における牛乳の位置について、下図にしめした年齢別の食品群別カルシウム摂取量から検討して見よう。。

カルシウム総摂取量も乳類からのカルシウム摂取量も、7~14歳が最も多く、15歳以上になると乳類からの摂取量が大きく減少することによってカルシウム摂取量も少なくなる。これは、日常的に牛乳を飲む機会を作っている学校給食の重要性をあらためて示すものである。20歳以上になるとカルシウム摂取量が徐々に増えていくが、この増加は乳類よりも野菜類、豆類、魚介類の増加によるところが大きく、乳類が日本の食事の中に十分根付いていなことが分かる。
国民・健康栄養調査によると、乳類摂取量のうち牛乳が約60%、発酵乳・乳酸菌飲料が約30%を占め、チーズは3%程度である。つまり、日本では乳類は飲み物としての意識が強い。私たちは、食事の中で牛乳・乳製品を使った料理を食べることは少なく、チーズは酒類のつまみとして使われることが多い。そんな中、チーズを使うピザが普及してきたことから、食べ物として乳製品を食べることが広がってきている。牛乳を飲み物として飲用することを残しながら、乳製品の入った食べ物をもっと増やしていくことが望まれる。
フランスのオーヴェルニュ地方に、マッシュポテトとチーズを一緒にオーブンで焼いたアリゴという郷土料理がある。これを食べた時、もちもちとしてチーズが伸びる食感がおいしく、「チーズお餅」とそっくりだと感じた。「チーズお餅」は、我が家の子ども達のおやつとして餅にチーズをのせて電子レンジで加熱してよく作った食べ物である。このように、先入観にとらわれず、牛乳や乳製品の新たな食べ方を取り入れていくことも必要と思われる。

 

参考書等
厚生労働省(2014)『「日本人の食事摂取基準(2015)」作成検討会報告書』
「骨粗鬆症-基礎と臨床」『医学のあゆみ』(1995/5/29)
山内邦男、今村経明、守田哲朗(1993) 『牛乳成分の特性と健康』
J. Yamauchi et, al (2002) “Milk Basic Protein (MBP) Increases Radial Bone Density in Human Adult Women”, Biosci. Biotechinol. Biochem. 66(3) 702-704

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馬路 泰藏

現職時には、主に動物実験による栄養学研究、食生活に関する調査研究に携わり、今も食生活のあり方について関心を持っている。著書に『ミルクを食べる 肉を食べる』、『床下からみた白川郷』(風媒社)『食生活論』(有斐閣)等。趣味はテニス、写真撮影。