ジルコニウム(Zr)-宝飾品から原子炉まで

 ジルコニウムは,世界で約152万㌧(鉱石量,2015年)が生産され,その上位三国はオーストラリア,南アフリカ,中国です。主な工業用途はセラミックス,耐蝕用材,原子炉燃料被覆材ですが,宝飾品としても知られている元素です。

ジルコンとジルコニウム

金属元素ジルコニウムの名前は,アラビア語やペルシア語できんを表すzarザルや「輝く,黄色い」という意味のzargûnザルグーンを語源とする宝石としてのジルコンがもとになっています。古くから知られていたジルコンですが,その中に未知の金属が含まれていることは,化学者たちも18世紀末まで気付きませんでした。

1789年,フランスのM.クラプロートは,スリランカ産のジルコンを分析し,それまで知られていなかった種類の酸化物(酸化ジルコニウム,ZrO2)の存在を確認しました。しかし,この頃の鉱物学者たちは,ある者はジルコンをサファイアに,またある者はトパーズに,そしてまたある者はルビーに分類する,といった混乱した状況でした。
1824年,スウェーデンのJ.ベルセリウスは,ジルコンから誘導した化合物をカリウムで還元して新たな金属としてジルコニウムを分離したのです。


ジルコン(秋田大学鉱業博物館所蔵)

ジルコニウムは,耐蝕性・耐熱性に優れることと,熱中性子をほとんど吸収しない性質から,原子炉の核燃料棒被覆管の材料として用いられます。その代表であるジルカロイは,ジルコニウムを主成分とし,すずなどを含む合金です。
一方,ジルコニウムと同族の元素ハフニウム(72Hf)は熱中性子の吸収率が大きく,原子炉では制御棒に使われます。ジルコニウムは燃料棒を覆っても核反応を妨げず,ハフニウムは核反応で生じる中性子を吸収して反応を抑制する,というように,両者の役割は対照的です。
ところが,一般的な工業用途のジルコニウムは1~2%のハフニウムを含むため,被覆管用材料ではハフニウムの含有量を0.01%程度にまで減らさなければなりません。しかし,ジルコニウムの存在がハフニウムの発見を遅らせたとされるほど,二つの元素の性質は類似しているので,分離には専用の工程を要します。

実際,20世紀初め頃においても72番元素は未発見で,イギリスのH.モーズリーによる元素の特性X線に関する法則,及びデンマークのN.ボーアによる原子構造論から,72番元素は40番元素であるジルコニウムと同族元素であると推定されていた程度でした。ハフニウムは1922年,ノルウェー産のジルコンからX線分析と分別結晶によって発見されました。

 

 

 

 

ジルコニウムの単体
(秋田大学鉱業博物館所蔵)

 

ジルコニア(酸化ジルコニウム)とキュービックジルコニア

ジルコンはジルコニウムのケイ酸塩鉱物(主成分はZrSiO)です。花崗岩かこうがんなどの岩石中に含まれ,色は褐色系が多く,大きさは1㎜程度のものがほとんどです。しかし,風化に強く密度が大きい(3.9~4.7g/㎤)ので,海岸などに砂粒状のジルコンが集まって産することがあります。ペグマタイトからは大型結晶が得られることがあり,稀に数㎝程度のものが産します。

ジルコンの人工石にキュービックジルコニア(以下,CZ)があります。
純粋な酸化ジルコニウム(ジルコニア,ZrO)の結晶系は室温では単斜晶系で,1200℃以上に熱すると正方晶系に転移します。ところが,酸化イットリウム(YO)などを含む場合は,焼結の際に高温から室温に戻しても準安定状態として正方晶系が保たれます。このようなジルコニアは「安定化ジルコニア」(強化ジルコニアとも)と呼ばれ,このとき添加される酸化物は安定化剤と呼ばれます。
ジルコニアの結晶が準安定状態を保つ理由は,冷却時に内部に亀裂ができ始めたときに,正方晶系の細粒がエネルギーを吸収して単斜晶系に変化し,このとき体積がわずかに増加して,亀裂がそれ以上進行するのを抑制することによると考えられています。

ジルコニアにイットリウム,カルシウム,マグネシウム,ハフニウムなどの酸化物を4~15%ほど添加した安定化ジルコニアが「立方晶安定化ジルコニア」,すなわちCZです。CZはダイヤモンドより安価で比較的大型の結晶も得られ,金属元素を添加することによって様々な色の結晶が得られることから,宝飾品として用いられます。
ジルコニアは,方解石のように複屈折性です。複屈折性は,透明な劈開面を通して文字などを見ると二重に見える性質です。ジルコニアは屈折率が高く,輝きも強いため,無色透明のものは宝石の中で最もダイヤモンドに似ていると言われます。さらに,ダイヤモンドのように単屈折性のCZがつくられるようになると,無色のものはダイヤモンドと見分けにくくなりました。

 

 

 

 

キュービックジルコニア(CZ)

CZの硬さは,モース硬度で8~8.5と,トパーズと同等またはそれ以上の硬さです。モース硬度は,1812年にドイツの鉱物学者F.モースが考案した測定法によって決められます。モースは,鉱物の硬さの尺度として,以下のような身近にある鉱物を標準物質として1から10までの整数値を割り当て,それらで引っ掻いたときの傷の付き方で評価する方法を考案しました。例えば8.5の硬さとは,トパーズには傷を付けることができますが,コランダム,ルビー,サファイアには傷を付けられず,逆にそれらによって傷を付けられる硬さに相当します。

1:滑石(タルク)  2:石膏          3:方解石
4:蛍石       5:燐灰石(アパタイト)  6:正長石
7:石英(水晶)   8:トパーズ(黄玉)
9:コランダム(鋼玉)・ルビー(紅玉)・サファイア(青玉)
10:ダイヤモンド

ただしモースの硬度は引っ掻き傷に関するもので,叩いて壊れるかどうかという堅牢さの尺度ではありません。例えばモース硬度では最高値のダイヤモンドでも衝撃には弱く,金鎚などで比較的容易に砕けてしまいます。

 
モース硬度計(岐阜県立岐阜高等学校理科室・所蔵)
左: モースは「蒙氏」と表記(「岐阜中學校」の備品票が貼付されている)
飾り枠には「東亰市神田區 小川町壹番地 金石舎」とある。
(金石舎についてはココをクリック)
右: 蓋を開けたところ(右上から左下へ硬度1~9の鉱物標本が収められている)
硬度10の標本(左端)はダイヤモンドのガラス切りと思われるが欠落している。

 

参考文献
「元素発見の歴史2」M.ウィークス・H.レスター著,大沼正則監訳(朝倉書店,1990年)
「楽しい鉱物図鑑」堀 秀道著(草思社,2013年)
「元素の名前辞典」江頭和宏著(九州大学出版会,2017年)
「元素118の新知識」桜井 弘著(講談社,2017年)
「地理統計 2019年版」(帝国書院,2019年)

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園部利彦

園部利彦

2017年まで岐阜県の高校教諭(化学)。非常勤講師として2019年に名古屋工業大学「科学史」(工学部二部),2020年に名古屋経済大学「生活の中の科学」(全学部共通)を担当。趣味は鉱山の旅とフランス語。