コバルト(Co)-青色の代名詞になっている元素

 コバルトは周期表9族(鉄族)の元素で,その単体は銀白色の金属(密度8.9g/㎤,融点1490℃)で,鉄より酸化されにくく,酸・塩基にも腐蝕されにくい性質です。コバルトは合金や顔料などとして身近なところに使われています。
天然のコバルトは59Coですが,中性子を吸収してできる60Co(半減期5.3年)は放射性でγ線源です。60Coは,医療分野(放射線療法,滅菌),食品分野(ジャガイモの発芽防止),工業分野(非破壊検査)などに利用され,トレーサー(追跡子)としても広く使われます。

魔法をかけられた鉱石から半金属へ-コバルトの発見

コバルトを含む鉱石は,かつてはうまく融けずに反応釜を損なうことが多く,不純物の除去に手間がかかるので価値が低いだけでなく,焼くとヒ素の煙が出て健康が冒されることも知られていました。コバルトを含む物質は,古代からエジプトや中国でガラスや陶磁器を青く着色するのに添加されましたが,その知識は経験的なもので,元素としては知られていませんでした。
16世紀頃,ドイツの鉱山町の人々は,コバルトの鉱石が扱いにくいのは,コバーロスという地底の邪悪な妖精が鉱石に魔法をかけたからだと考えていました。コバーロス(κοβαλος)は,ギリシア語で「無頼漢,山の悪神」を意味する言葉です。

17世紀の終わり頃,スウェーデンの薬剤師J.ブラントは,低品位の銅鉱石の利用法を開発し,鉱山を買い取りました。そしてその息子のG.ブラントは,化学・鉱物学・冶金学を修め,薬学博士になりました。
G.ブラントは,ガラス状物質に混ぜるとごく少量で銅の化合物よりもずっと深い青色に染める性質があり,ツァッフェル(zaffer)などと呼ばれていた物質を調べました。彼は,ツァッフェルから未知の酸化物を得て,それを炭素で還元してつくった金属に,山の妖精コボルトに因むコバルトという名前を付けました。
ドイツ語のKoboldコボルトは「山の精,地の精,小妖精」や「いたずら小僧,おてんば娘,起き上がり小法師こぼし」の意味です。ドイツの詩人J.ゲーテの戯曲『ファウスト』は,錬金術師のファウストが悪魔メフィストフェレスとの契約で世界を遍歴する物語です。悲劇第一部の〈書斎〉で,ファウストは火の精・水の精・風の精・土の精への呪文のことを言います。
 -こういう奇っ怪なやつには四つの呪文がいる。
    サラマンダー、燃えろ。
    ウンディーネ、うねれ。
    ジルフェ、消えろ。
    コーボルト、はげめ。
  四元素の力と特徴を知らない者が、霊を左右できるはずがない。
1735年には,王立科学アカデミーに提出した半金属に関する論文で,その試料が6種類の金属と共に6種類の半金属(水銀・ビスマス・亜鉛・アンチモン・ヒ素・コバルト)を含むと記しています。半金属は,色・重量・形状は金属に似ていて,展性・延性(=外力で破壊されることなく変形できる性質,可鍛かたん性)が少ない物質のことす。

 

防錆・耐摩耗材料や磁石材料として使われるコバルト合金

コバルトを含む鉱物には輝コバルト鉱(Cobaltite,CoAsS),コバルト(Erythrite,Co(AsO)・8HO)などが知られ,その多くにはニッケル,銅なども含まれます。コバルト華は,コバルトやニッケルの鉱床上部の酸化された部分に見られ,その鮮やかな赤紫色は正に地中に咲いたはなのようです。アンナベルク石(Annabergite,Ni(AsO)・8HO)も同系の含水ヒ酸塩鉱物で,ニッケル華とも呼ばれ,こちらは鮮やかな緑色です。

 

 

 

東ドイツ(当時)の切手に描かれたコバルト華(1969年発行,5㌸)
出典:Deutsche Post der DDRによる”Stamps of Germany (DDR) 1969”ライセンスはPD(WIKIMEDIA COMMONSより)

コバルトの製錬では,先ず,他の金属の化合物を除去してから水酸化物として沈澱させます。次に水酸化物を加熱して酸化コバルト(Ⅲ)(CoO)としてから,炭素や水素で還元します。このほかに電解法も行われます。
単体のコバルトは,鉄に添加すると腐蝕されにくくなることを利用して,はさみなどに使われます。また,ニッケル・クロム・モリブデン・タングステン・タンタル・ニオブなどを添加した合金として,コバルトハイス鋼(高速度工具鋼),切削工具材料,ガスタービンやジェットエンジンの部品などに使われています。
また,コバルトを主体としてクロム,タングステンなどを含む非鉄合金のステライトは,高硬度で磨耗に強いことから,表面強化が求められる分野,例えば,鋳型や航空機の表面処理に用いられ,腐食しにくいことを利用して歯科用材料や人工関節に使われます。

コバルト合金は強磁性で,磁性材料としても広く使われています。コバルトを添加すると磁性やキュリー温度(=強磁性体が常磁性状態から強磁性状態へ,またはその逆の変化をするときの転移温度)が上昇するなど,磁性材料としての性能が高まります。その一つのAl-Ni-Co系合金はアルニコと呼ばれる永久磁石で,サマリウムコバルト磁石も強い保磁力で知られています。

 

様々なコバルトの化合物

コバルトのイオンのうち,コバルト(Ⅲ)イオン(Co3+)は,ガラスの熔融温度では不安定で,ガラスの中ではコバルト(Ⅱ)イオン(Co2+)として存在します。ガラス材料にケイ酸コバルト(Ⅱ)(CoSiO)を加えると青色ガラスが得られます。青色ガラスではCo2+に4個の酸素原子が配位した状態にあり,配位数が6の状態になると赤色になります。
塩化コバルト(Ⅱ)(CoCl)は,かつてはシリカゲル(成分はSiO・nHO)に混ぜて吸湿の程度を示すのに使われました。シリカゲルは,水ガラスとも呼ばれるケイ酸ナトリウム(NaSiO)から得られるゾルをゲル化したもので,ビーズ状に加工されて食品などの乾燥剤に使われます。シリカゲルに塩化コバルト(Ⅱ)を混ぜておくと,乾燥した状態では青~青紫色ですが,吸湿が進むにつれて徐々に赤色を増します。これは,無水物(Co[CoCl])のときは青色で,水を吸収して六水和物([Co(HO)]Cl)に変化すると赤色を呈することによります。最近では,シリカゲルはコバルトフリーになりました。

 
(左)シリカゲル(左は乾燥した状態,右は吸湿した状態)
(右)着色ビーズが使われた製品

酸化コバルト(Ⅱ)を含むウルツ鉱型固溶体(CoO-ZnO系やCoO-MgO-ZnO系)はコバルトグリーンと呼ばれる緑色の顔料です(マグネシウムが加わると暗緑色)。これは,1780年にスウェーデンの鉱物学者S.リンマンによって発見されたことから「リンマングリーン」とも呼ばれます。隠蔽いんぺい力が大きく,耐光性に優れ,酸には侵されますがアルカリには侵されにくい性質で,高温でも比較的安定です。

アルミン酸コバルト(Ⅱ)(CoAlO)は青色顔料のコバルトブルーで,陶磁器の着色や絵の具などに使われます。1802年にフランスの化学者L.テナールが発明したことから,「テナールブルー」とも呼ばれます。
コバルトブルーは,CoO-AlO系(CoO/AlO=2/3~1/5)またはCoO-MgO-AlO系(MgO/CoO=0~1)で,その結晶はスピネル型構造です。耐光性・耐候性・耐酸耐アルカリ性に優れ,絵の具・塗料・プラスチックの着色剤に欠かせない顔料です。その製法は,一般の無機顔料の場合と窯業材料用の顔料(海碧かいへき,マットブルーとも呼ばれる)の場合とでやや異なりますが,コバルトの水酸化物や酸化物,アルミニウムの水酸化物が原料です。

ヘキサニトロコバルト(Ⅲ)酸カリウム(K[Co(NO)])はコバルトイエローと呼ばれる黄色顔料で,絵の具としての名前は「オーレオリン」です。1831年にドイツのN.フィッシャーが亜硝酸塩の研究の過程で初めて合成し,1851年になって黄色顔料として知られるようになりました。


 

コバルトを含む顔料
〔上〕コバルトグリーン(リンマングリーン)
  出典:Stephhzzによる”cobalt green pigment”ライセンスはCC BY-SA 3.0(WIKIMEDIA COMMONSより)
〔下・左〕コバルトブルー(テナールブルー)
  出典:FK1954による”Cobalt blue”ライセンスはPD(WIKIMEDIA COMMONSより)
〔下・右〕コバルトイエロー(オーレオリン)
  出典:W. Oelenによる”Potassium hexanitritocobaltate(III) monohydrate, according to the source”ライセンスはCC BY-SA 3.0(WIKIMEDIA COMMONSより)

赤色のビタミンとして知られるビタミンB12(シアノコバラミン)では,コバルトイオンとシアノ基([CoCN])がポルフィリン環に似たコリン環の中心に位置しています。

ビタミンB12の構造式と注射液
(構造式)出典:Alsosaid1987による”Cyanocobalamin-b12”ライセンスはCC BY-SA 4.0(WIKIMEDIA COMMONSより)
(注射液)出典:آرمینによる”Vitamin B12”ライセンスはPD(WIKIMEDIA COMMONSより)

ビタミンB12は,1924年,アメリカの内科学者G.マイノットとその助手のW.マーフィーが,犬に人為的に起こした貧血症状がレバーの摂取で改善することを発見し,医師のG.ホイップルが貧血の治療法を見出しました。彼らの発見を端緒にして肝臓中のこの物質が抗悪性貧血因子であることが分かり,1948年にD.ホジキンがビタミンB複合体の結晶化に成功し,1955年に構造が明らかにされました。
ビタミンB12は,海苔のりや貝類に比較的多く含まれ,魚肉,牛肝臓,卵黄,牛乳にも含まれています。一方,穀類,芋類,豆類,野菜・果実類にはほとんど含まれません。医薬としては,鉄剤や葉酸と並ぶ造血剤です。

 

参考文献
「元素発見の歴史1」M.ウィークス・H.レスター著,大沼正則監訳(朝倉書店,1990年)
「独-日-英 科学用語語源辞典 ギリシア語篇」大槻真一郎編著(同学社,1997年)
「南山堂医学大辞典」(南山堂,1999年)
「ファウスト 第一部」ゲーテ著,池内 紀訳(集英社,2006年)
「元素大百科事典」P.エングハグ著,渡辺 正監訳(朝倉書店,2008年)
「楽しい鉱物図鑑」堀 秀道著(草思社,2013年)
「元素118の新知識」桜井 弘編(講談社,2017年)

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園部利彦

2017年まで岐阜県の高校教諭(化学)。非常勤講師として2019年に名古屋工業大学「科学史」(工学部二部),2020年に名古屋経済大学「生活の中の科学」(全学部共通)を担当。趣味は鉱山の旅とフランス語。