初日の出を拝みながら太陽で発見された元素ヘリウムに思いを馳せる(He、原子番号2)

写真1:初日の出(photo ac)

太陽系のボス“太陽”を知ろう

明けましておめでとうございます!
本年1つ目の話題は、「初日の出(写真1)」を化学的に楽しむために・・・・「ヘリウム」です。

太陽は私たちにとって大切な存在であることは、疑いようがありません。地球という星が、生物が繁栄できるほど暖かいのも、植物が光合成をして豊かに実るのも、太陽から光が降り注いでいるからです。太陽は自ら輝く恒星で、周りに惑星、準惑星、小惑星、彗星などを従え、太陽系を構成しています。つまりこの星たちのボスです。地球も太陽系の一員です。

太陽系のボス“太陽”は、地球から約1億5000万 km離れたところにある、直径約140万 km、表面温度約6000℃の、水素とヘリウムからできている玉です。中心付近の質量比は約 33%が水素、残りはほぼヘリウム です 。太陽が光として発している巨大なエネルギーは、内部で起こっている水素がヘリウムになる“核融合反応”に由来します(図1)。

ということは、水素は太陽の燃料で、ヘリウムは燃えカスのようなものです。水素がなくなったらたいへんですが、ヘリウムがなくなってもどうってことなさそうです。ちなみに太陽が誕生した時、中心付近の 水素は70%あったといわれています。今33%ですから、これまでに水素のおよそ半分が消費されたことになります。つまり太陽は寿命の約半分を過ぎたところですから、あと約50億年輝き続けてくれるということです。


図1 :太陽内部で起こっている核融合反応。水素(陽子)が核融合を繰り返して、最終的にヘリウム4になる。

 

太陽スペクトルで発見されたヘリウム

太陽には大量に存在する水素(H、原子番号1)とヘリウム(He、原子番号2)ですが、地球大気や地殻中にはあまり存在していません。というのも、どちらも軽い気体で、地球の重力の束縛を逃れて宇宙へ出て行ってしまったからです。この軽いという性質を利用して、風船を膨らませたり、ガス気球を飛ばしたりするのに使われてきました。今では、燃える危険性のある水素は使われなくなり、安定性の高いヘリウムが使われています。

このヘリウム。希ガスの仲間で、ほかの元素と反応をほとんど起こしません。そのため地上でその存在が認められる前に地球外で発見されました。元素も、大人しい(ほかの元素と反応しない)と気付かれにくいということのようです。 そしてその発見には太陽が関わっていました。

1868年8月18日の皆既日食の際に、分光器でプロミネンス(写真2)の観察が行われ、スペクトルの中に新しい黄色い線が発見されました。これが未知の元素によるものだとして、ノーマン・ロッキャーとエドワード・フランクランドがギリシャ語の太陽「helios(ヘリオス)」にちなんでヘリウムと名付けました。地上でのヘリウムの発見は、1895年にウィリアム・ラムゼーがウラン鉱の一種であるクレーブ鉱から分離したことによります。ちなみにヘリウムは、ウラン鉱の中のウランがα壊変するのに伴ってできます。地中でヘリウムが生まれているのです。


写真2 :皆既日食の際に観測されたプロミネンス
Luc Viatour氏による”1999年にフランスで見られた皆既日食の様子”ライセンスはCC BY-SA 3.0による
(出典:Luc Viatour / https://Lucnix.be

 

低温技術に欠かせないヘリウム

ヘリウムは、風船や気球以外に何に使われているのでしょうか。そういえば、声が高くなる面白いパーティーグッズがありますが、あれは酸欠にならないよう、ヘリウムに20%の酸素を混ぜたものです。普通の空気の中で、音は秒速340 mで進みますが、ヘリウムの中ではその3倍の速度で進むため音が高くなるのです。仮に太陽に行くことができたとしたら、ヘリウムを吸って声は高くなるのでしょう。

それは冗談として、2012年末にヘリウムの供給が急激に悪化し、国内のガス会社の備蓄庫からヘリウムが消える「ヘリウムショック」が起こっていたそうです。日常生活でヘリウムを意識することがあまりないので、気付かなかったかもしれませんが、東京ディズニーランドのバルーンは販売中止になったのだそうです。ヘリウムは、比較的ヘリウムを豊富に含む天然ガスから、ほかの成分を低温・高圧で液化して分離して得ることができます。ヘリウムが最も低い沸点と融点をもつ元素であるが故の精製法です。枯渇問題が起こるのは、採算に見合うコストでヘリウムを取り出せる天然ガス田の数に限りがあるためです。

「ヘリウムはほかの元素と化合物をつくるわけでもないのに、足りなくなるほど重要な元素だったのね!」と私も認識を新たにしました。ではどのように重要なのでしょうか。まず気体としては、半導体の製造過程において熱処理を終えたシリコンウェハーを素早く冷やすのに使われています。ここでヘリウムが選ばれるのは、ほかの元素と反応しないからです。またロケットでは、推進剤として使われている液化水素と液化酸素をタンクから噴射口に押し出すのに気体のヘリウムが使われています。その理由はヘリウムが液体水素や液体酸素に混ざりにくいからです。

このほか忘れてはならないのが、液体ヘリウムが“極低温をつくる”ということです。その温度は明確に決められているわけではありませんが、ヘリウム4の沸点4.2 K(約-269℃)以下の温度のことだそうです。2.17 K以下になると、ヘリウム4の液体は粘性を失って、容器の壁を乗り越えるという不思議なことが起こります。これを超流動と言い、この現象は山崎先生の実験講座で見ることができます(https://www.kojundo.blog/experiment/826/)。

こんな不思議な現象が起こるほどの非日常的な低温を必要とするのは、例えば超電導磁石です。超電導磁石は、病院に設置されている磁気共鳴画像装置(MRI)やリニアモーターカーなどに利用されており(写真3) 、そこでは液体ヘリウムによる冷却が行われているのです。

ほかの元素と反応を起こさない大人しいヘリウムですが、その特異な性質から他に代わりのきかない活躍をしていることが分かりました。

 

写真3:液体ヘリウムを冷却剤として使っているMRI(左、depositphotos)とリニアモーターカー(右、photo ac)。最先端技術には極低温が必要なものがある。

 

【参考資料】
『元素の事典』朝倉書店、2011年
太陽(JAXA、2018年11月)http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/sun.html
「太陽の内部構造について」(理科年表オフィシャルサイト):
https://www.rikanenpyo.jp/kaisetsu/tenmon/tenmon_015.html#hyo1
He ヘリウム(Helium):https://staff.aist.go.jp/koji-abe/Table/He/He.htm(安部浩司氏サイト)
http://www.ielement.org/he.html
ヘリウムソリューション.com:https://www.helium-solution.com/helium_abou/
極低温科学センター:http://www.clts.tohoku.ac.jp/

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池田亜希子

池田亜希子

サイテック・コミュニケーションズに勤務。ラジオ勤務の経験を生かして、 現場の空気を伝えられる執筆・放送(科学関連)を目指している。