期待を裏切らないスーパー金属?! チタン(Ti)

ウルヴァリンの爪を探して

『X-MEN:ダーク・フェニックス』が絶賛上映中です。2000年に始まったX-MENシリーズも、今作品が最後(?)。簡単に説明すると、特殊能力を持つ登場人物たちが、協力して悪に立ち向かうといったストーリーです。映画に登場する特殊能力はどれも凄すぎて現実にはないものばかり。でも、単なるエンターテイメントなのかと思って見ると、“個性”とは何かを強く問われていてドキッとさせられます。

さてX-MENといえば、ヒュー・ジャックマンが演じる狼男のような“ウルヴァリン”が代表的なキャラクターでしょう(2017年にシリーズから卒業しており、残念ながら今作品には登場しません)。世界最強と言われる“合金”を骨格に組み込まれたために、どんな怪我をしても治ってしまう生命力を獲得しました。さらに、戦闘の際には手の甲から、金属製の爪が現れるのです。彼の鋭くて何でも割いてしまう爪を初めて見た時、「あっ、チタン!」と思ったのですが、それは私だけでしょうか。

体の中から出てくる爪は、生体との親和性が高い素材でできているはずです。現在、人工関節や人工歯根には、チタンという金属がよく使われています(図1)。また、チタン製の包丁は、ステンレス製包丁の約半分という軽さで、錆びなくて、切れ味が長く続くといった優れものです。ウルヴァリンの爪の素材候補としてなかなかいいかもしれないと思ったのですが、実は鋼やステンレスの包丁に比べると少し切れ味に劣るようです。チタンじゃないのかと思い改めて調べてみると、爪は「アダマンチウム合金」という架空の合金でできている設定でした。

実在しない素材なのは残念ですが、勘違いついでに、今回はチタンという金属について考えることにしました。

 

図1:人工関節と人工歯根。チタンやチタン合金が多く使われている。

 

「チタン=凄い」というイメージはどこから?
~私の場合~

ウルヴァリンの爪を“チタンに違いない”と思ったのは、私がチタンに対して“凄い金属”だというイメージを持っていたからです。何をきっかけにそう思うようになったのか・・・古い記憶をたどると、父から「凄いドライバーができた」と、チタンがゴルフクラブの素材として使われていることを聞いたからでした。1990年、ミズノが「チタンヘッドで飛ばす」をキャッチコピーに、世界初のチタンヘッドのゴルフクラブを発売しました。飛ばすためには、ボールに当たる際のヘッドスピードが速くなくてはなりません(図2)。そのためにヘッドを軽くしなければなりませんが、しっかりボールを捉えるには、ヘッドはそれなりの大きさで、なおかつ強さも兼ね備えていなくてはなりません。つまり大きいけれど軽く、その上強度が十分なヘッドをつくるために選ばれた素材が、チタンだったのです。

図2:ゴルフクラブのヘッドがボールに当たる瞬間。この時のヘッドスピードが速いほど、ボールはよく飛ぶ。

 

チタンは値段もスーパー

チタンという名称は、ギリシャ神話に登場する巨人のタイタンに由来します。名前からして凄そうですが、実際はどのような金属なのか、発見の歴史から振り返ってみましょう。チタンは、1791年にイギリス人聖職者のグレゴー(William Gregor)によって、さらに1795年にドイツ人化学者のクラプロート(M.H.Klaproth)によって酸素(O)と結合した酸化物として砂や鉱物から発見されました。チタンと名付けたのはクラプロートですが、2人ともチタン酸化物からチタンを抽出することはできませんでした。

酸素雰囲気の地球で、金属が酸素と結合した状態で存在していることは特に不思議なことではありません。例えば、鉄も酸化物(Fe2O3)として産出します。鉄の場合、炭素が鉄よりも酸素と結合しやすいので、酸化鉄を炭素と一緒に加熱すれば、鉄の単体を得ることができます。この簡単さゆえに、鉄は紀元前2000年頃には使われるようになっていました。

ではチタンはどうでしょうか。チタンの単体の抽出に初めて成功したのは、アメリカ人のハンター(M.A.Hunter)です。1910年、チタンの酸化物である二酸化チタン(TiO2)を、①いったん四塩化チタン(TiCl4)にした後、②ナトリウム(Na)で還元して、チタンを得ました(図3)。酸化物の発見から、実に120年の歳月が経過していました。これほどチタンの抽出が困難だったのは、チタンと酸素の結びつきが強く、両者を離すのに、①と②の2段階の反応プロセスが必要だったからです。この方法は、発見者の名前を付けて「ハンター法」と呼ばれています。

図3:ハンター法。1910年にこの方法で、ハンターが初めてチタンの単体の抽出に成功した。

現在、工業的には、ハンター法のNaで還元するプロセスをマグネシウム(Mg)で行う「クロール法」が採用されています。このチタン製造プロセスは現状もっとも優れた方法ではありますが、チタン1トンを製造するのに100万円以上のコスト、2週間以上の時間がかかります。それでもチタン製造が続けられているのは、その高性能が不可欠な用途があるからです。思った通り、チタンは“スーパー金属”なのです。しかし、地殻中では9番目に多い元素で資源としては十分量あるのにも関わらず、世界生産量が20万トンに満たないのは、やはり高価だからです。より安価な製造プロセスの研究が続けられており、これが確立すれば、もっと活躍の場を広げられる金属なのです。

 

チタンの三大特徴
“軽くて”“強くて”“錆びない”

チタンの特徴として重要なのは、“軽くて”“強くて”“錆びない”ことです。この三大特徴は、ほかの金属を加えて合金化することによって強化され、用途の拡大につながっています。人工関節や人工歯根、ゴルフクラブのヘッドなどの素材に採用されていることはすでにお話した通りです。チタンやチタン合金のアルミニウム合金よりは重いけれど、鋼よりはずっと“軽くて”、“強さ”は低炭素鋼なみという性質がもっとも効果を発揮するのは、航空宇宙産業においてです。少しでも軽くできれば、消費燃料が減って運用コストが削減されるだけでなく、地球環境にも優しくなります。そのため、航空機の機体やエンジン(図4)、ロケットの部品に多く採用されています。

図4:航空機エンジン

また、錆びない性質によって、化学工業用装置、石油精製設備、原子力発電所用機器などの主要な部分の材料として使われています。ちなみに錆びないのは、チタンが酸素と結合して酸化チタンの薄い膜(不働態皮膜と呼ぶ)をその表面に形成するからです。チタンの抽出が困難だったのは、酸化チタンから酸素を除きにくかったからですが、逆にこの性質によって、チタンは酸や食塩水の腐食から免れるのです。

ここまででチタンの凄さは十分お分かりいただけたと思いますが、なんと浅草寺本堂の屋根も2010年からはチタン製です。最先端のチタン瓦を採用することに抵抗を感じる人たちもいたようですが、屋根の重さは930トンから180トンに減りました。軽くてしっかり固定されているので、落下の心配がなく、訪れる参拝客の安全も確保されるということです。実際、東日本大震災でも瓦の落下はありませんでした。

それではチタンの凄い機能をご紹介して、終わりましょう。「光触媒」という言葉を聞いたことのある方もいると思います。光を吸収して触媒作用を示す(化学反応を促進する)物質の総称です。代表的な光触媒材料として知られるのが、酸化チタン(TiO2)です。光触媒で加工されたドームスタジアムやスポーツ施設(例・屋内テニスコート)などの白いテント膜屋根は、長年風雨にさらされても汚れて黒ずんだりすることがありません。“セルフクリーニング”が起こるので、掃除をしなくてもいいのです!!!

凄いぞ チタン!!

 

【参考資料】
② 『元素の事典』朝倉書店、2011年
③ 『チタンのおはなし』日本規格協会、1995年
④ 『チタン 現場で生かす金属材料シリーズ』丸善出版、2011年
⑤ 『世界で一番美しい元素図鑑』創元社、2015年
⑥ 『材料技術史から見るこれからの技術展開~チタンおよびチタン合金~』まてりあ、第58巻、第4号、2019年
⑦ 浅草寺の本堂も…チタン建材を「城の瓦」に新日鉄住金が防災価値をアピール(SankeiBiz):
https://www.sankeibiz.jp/business/news/180106/bsc1801060500008-n1.htm
⑧ チタン屋根工事レポート(株式会社カナメHP):http://www.caname-jisha.jp/sensouji/index.html
⑨ 光触媒(環境展望台):http://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=39
*ウェブサイトはいずれも2019年6月現在、イラストはdepositphotosより。

 

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池田亜希子

池田亜希子

サイテック・コミュニケーションズに勤務。ラジオ勤務の経験を生かして、 現場の空気を伝えられる執筆・放送(科学関連)を目指している。