一番小さい元素「水素(H)」 ~実は宇宙で最も豊富にある元素~

宇宙で最初に誕生した元素

生活の中の元素 第一回は、原子番号1「水素」のお話です。

「なんだ、順番通りか」と思われる方がいるかもしれないので、少し言い訳をさせてください。このブログは教科書ではありませんから、なにも1番から始まらなくてもいいのです。それならば、第一回にふさわしい元素を選ぶべきです。例えば、「暮らしの中で最も重要な元素はこれだ!」とスタートを切れたらと思い、それは炭素(C)だろうか、それとも酸素(O)だろうか、いや鉄(Fe)だろうかといろいろ思いを巡らせました。たしかにどれも重要な元素ですが、決め手に欠けるように感じたのです。そんな中で、水素(H)が特別な元素だということを思い出しました。

この宇宙はビッグバンという大爆発によって始まりました。直後は1000億 ℃と超高温だったので、あらゆる粒子が宇宙空間を激しく飛び回ってバラバラでした。それから38万年ほど経つと、宇宙は約3000 ℃にまで冷えました。それでもまだまだ熱いのですが、大きな変化がありました。+の電荷をもつ粒子「陽子」と-の電荷をもつ粒子「電子」の引き合う力が、その飛び回る力に勝って、原子ができたのです。こうして、まず陽子1個と電子1個からできている「水素(H)」が誕生しました(図1)。

 

図1:陽子1個、電子1個からできている水素(H)

この時には、ほかに原子番号2のヘリウム(He)と原子番号3のリチウム(Li)といった小さい元素ができました。これより大きな元素ができるためには、いったん水素やヘリウム、リチウムを材料に星ができて、その星が寿命を迎え超新星爆発という大爆発を起こさなくてはなりません。

つまり、最も小さい元素「水素」は、すべての元素の元になったと言える、特別な存在というわけです。

水素はどこに行った?

宇宙で最初にできた安定な水素は、さぞかしたくさん私たちの周りにあるのだろうと思って、地球大気の組成を見てみると、最も多いのは窒素ガス(窒素分子のこと。N2 重量比で75.5%)、続いて酸素ガス(酸素分子のこと。O2 重量比で23.0%)で、この2つで99%に達します。水素ガス(水素分子のこと。H2)は、重量比で0.00000348%と驚く程少ないのです。

では、宇宙で最初に大量にできた水素は、どこへ行ってしまったのでしょうか?ご安心ください(心配などしていないかもしれませんが・・・・)。宇宙の構成元素を見ると、重量比で73%を水素原子(H)が占めています。水素は最初に誕生した元素として、今もその存在感をしっかり保っています。

太陽は主に水素の塊で、この水素が核融合してヘリウムになる過程で発生したエネルギーが、地球に降り注いでいます。地球大気中に水素ガスが少ないのは、地上に引き止められないほど、地球の重力が小さいからです。

環境にやさしい燃料として注目

大気中に水素ガスは多くはありませんが、だからといって地球上に水素が少ないということではありません。生き物の身体を構成している、DNAやタンパク質、水を見ると、水素原子がたくさん含まれています。つまり水素分子(H2)のように単体ではなく、炭素原子や酸素原子などほかの元素と化合物をつくって存在しているのです。

水素分子ということでは、燃焼させても水しかできないという理由から、自動車用のエコな燃料として注目されています。ガソリンの代わりに水素を使う水素エンジン自動車と、水素燃料電池で発電してその電気で動く電気自動車の2通りが考えられています。

いずれにしても燃料として使うには、たくさんの水素分子を安定的に供給しなくてはなりません。また、気体の状態ではかさばって運びにくかったり、分子が小さ過ぎて普通のガスボンベでは漏れ出してしまったりといった問題もあります。こうした問題は徐々に解決され、使われ始めています。

その一方で、ロケットには既に長い間、水素が燃料として使われています。しかし、ロケットを飛ばすのに十分な燃料を搭載できるように、よりかさばらない液体にしなければなりません。水素は-253 ℃で液体になります。そのために種子島宇宙センターには、常に-253 ℃を保つことのできる巨大な液化水素タンクがあります。

太陽、ロケット、そしてこれからは自動車も、それぞれ形は違っても、水素からエネルギーを得ることになるのかもしれませんね。

図2:水素原子が存在するところは実に多彩(提供:illust AC)

 

参考資料

『エポックⅡ:宇宙の晴れ上がり~輻射と物質の時代の終わり&暗黒時代の始まり』天文教育2008年5月号
『完全図解周期表:周期表と全118元素を徹底解説』ニュートンプレス、2017山崎 昶『元素の事典』みみずく舎、2009
左巻健男『面白くて眠れなくなる元素』講談社、2017
桜井弘『元素118新知識』講談社、2017
一家に一枚2007「宇宙図」:https://www.nao.ac.jp/study/uchuzu/univ02.html
JAXA宇宙センター:http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/birth_of_galaxy.html
川崎重工業 project voice 04:http://www.khi.co.jp/stories/project_voice/vol04/

 

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池田亜希子

サイテック・コミュニケーションズに勤務。ラジオ勤務の経験を生かして、 現場の空気を伝えられる執筆・放送(科学関連)を目指している。