カルシウム~Ca 身体の動きを決めるカルシウム

身体を動かすのは筋肉

私たちは立ったり、座ったり、箸を使って食事をしたり・・・・と、生活の中で様々な動作をする。このような動作ができるのは、筋肉が伸縮するからである。
体内の筋肉は、不随意筋と随意筋の二つに分けられる。不随意筋は心臓や消化管等、考えることなく「自働的」に伸縮し、止めようと思っても止められない筋肉である。これに対し、随意筋は動かそうとする意思にそって伸縮できる筋肉である。

 

横紋筋の構造

随意筋は骨に付いているので、骨格筋ともいわれ、拡大してみると横縞模様が見えるので組織学的には横紋筋と呼ばれる。
骨格筋を構成しているのは細長い筋繊維で、たくさんの細胞が融合してできた大きな細胞である。筋繊維細胞には長軸の全長にわたって長い円筒状の筋原繊維がのびており、筋原繊維は細胞質の乾燥重量の2/3を占めている。この筋原繊維が筋肉細胞を伸縮させる装置である。

筋原繊維は、下図に示すようにZ線の間にはさまれたサルコメアという基本単位が連なった構造である。サルコメアには明帯と暗帯があり、これらの規則的な繰り返しが筋(原)繊維の横縞になってみえる。
サルコメアは、太いフィラメント状のたんぱく質ミオシンと細いフィラメント状のたんぱく質アクチンが、長軸方向に平行して部分的に重なり合って並んでいる。ミオシンは暗帯の端から端まで伸びており、アクチンは明帯から暗帯の一部に重なる所まで伸びている。

筋肉の収縮弛緩の仕組み

筋肉が弛緩している時は図・上のようにサルコメアのZ線と暗帯との間が離れているが、収縮しているときは図・下のようにZ線と暗帯との間が縮まっている。このようなサルコメアの変化はカルシウムが引き金となって起こる。その変化が分子的にどのように起こされているかを簡単に説明すると次のようになる。
筋肉の収縮にはATP(アデノシン3リン酸)がADP(アデノシン2リン酸)と無機リン酸(Pi)に加水分解する時に生じるエネルギーが使われる。一見奇妙に感じるかも知れないが、ミオシンにATPが付いた時に筋肉は弛緩する。弛緩している間にATPはADPとPiに分かれるが、ADPとPiはミオシンに付いたままで残る。こうしてできたADP-Piミオシン複合体はATPからのエネルギーを貯めこんでいる。弛緩した筋肉にカルシウム等の刺激がはいると、ミオシンがアクチンに近づいてアクチン-ミオシン-ADP-Pi複合体が作られる。こうなると、PiとADPが相次いで離れてミオシンの形が大きく変化する。この形の変化によってミオシンがアクチンをサルコメア中央に引っ張って筋肉を収縮させる。収縮したサルコメアにATPが供給されるとミオシンにATPが付くが、ATPの付いたミオシンはアクチンと引き合う力が弱いのでアクチンを放して筋肉が弛緩する。

 

カルシウムは筋小胞体から供給される

筋肉の収縮を引き起こすカルシウムはどこからくるのだろうか。筋繊維細胞には筋原繊維を覆うように網目状の筋小胞体が分布している。この筋小胞体は内部にカルシウムを蓄積しており、筋細胞への神経刺激によって筋小胞体からカルシウムが細胞質に放出される。細胞質のカルシウム濃度が上昇すると、前述の筋収縮の仕組みが作動する。細胞質のカルシウムはATPを使って速やかに筋小胞体に戻るので、筋肉は弛緩する。
言いかえれば、神経の刺激は筋繊維の中のカルシウムの濃度を変えることによって筋肉を意のままに動かすことができるのである。

 

多くの生理機能をコントロールするカルシウム

ここまでカルシウムが随意筋の収縮弛緩をコントロールする仕組みについて述べてきたが、細胞質のカルシウム濃度は筋収縮だけでなく様々な生理的変化をコントロールするシグナルとして働いている。
したがって、カルシウムなくして正常な生命活動は維持できない。そのため、血液中のカルシウム濃度は狭い範囲で維持されている。その濃度を維持するための仕組みが、前回述べた破骨細胞による骨からのカルシウムの供給(骨吸収)と言ってよい。破骨細胞による骨吸収は、骨を弱くする無駄なことではなく、正常な生理状態を維持するための重要な役割をもっているのである。

 

参考書等
上代淑人監訳『ハーパー・生化学』(2001)
中村桂子・松原謙一監修『細胞の分子生物学 第2版』(1990)
筒井よしほ「骨格筋のイラスト」https://www.ac-illust.com/

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馬路 泰藏

現職時には、主に動物実験による栄養学研究、食生活に関する調査研究に携わり、今も食生活のあり方について関心を持っている。著書に『ミルクを食べる 肉を食べる』、『床下からみた白川郷』(風媒社)『食生活論』(有斐閣)等。趣味はテニス、写真撮影。